深海底堆積物に大量のマイクロプラスチックを発見 ~行方不明のマイクロプラスチックは深海に~
中国体彩网,中国体育彩票app大学院創成科学研究科(理学系学域)の川村喜一郎研究教授、中村明夢(研究当時:理学部地球圏システム科学科環境物質科学コース4年)、中野健吾(研究当時:大学院創成科学研究科(博士前期)地球圏生命物質科学系専攻地球科学コース2年)の研究グループは、国立研究開発法人海洋研究開発機構(以下「JAMSTEC」という。)地球環境部門 海洋生物環境影響研究中国体彩网,中国体育彩票app 海洋プラスチック動態研究グループらと共同して、相模湾、プレート三重会合点および深海平原にかけての、水深855 mから9,232 mの7地点の深海底において、2019年9月に有人潜水調査船「しんかい6500」および大深度海底設置型観測システム「FFC11K」を使った調査を実施し、採取した堆積物柱状試料から堆積物内に大量のマイクロプラスチック(以下、MPs)が集積していることを明らかにしました。
世界では毎年800万トンを超えるプラスチックごみが海洋に流出し続けているとされています。これらのプラスチックごみは、沿岸や海岸などで、紫外線や熱、砂との衝突、生物による破壊などの風化作用によって劣化し、5 mm以下のMPsになります。小さくなったMPsは潮汐や海流によって沖合に流され、やがて海底に沈んでいきます。MPsは最終的に深海底に到達するため、深海底の堆積物がMPsの大きな集積場の一つであると予想されていました。しかし、深海は調査機会が限られており、その分布実態や輸送過程には不明な点が残されていました。
本研究グループは、採取地点の海底地形やそれらの繋がりや海洋表層のMPsの分布、人口密集地からの距離に着目し、深海堆積物内のMPsを分析して輸送経路を推測しました。その結果、これまで知られている数の2?5,500倍ものMPsが、深海堆積物に存在することがわかりました。沿岸域の深海底は人口密集地からも近く、陸域?浅海域の特徴と類似していましたが、陸域から離れた深海平原のMPsは、それらの特徴とは異なる特徴を持っていることがわかりました。MPsの分布密度、大きさや形状、MPsの材質の類似性から推測すると、沿岸域では陸域や浅海域から流出したMPsが深海堆積物に蓄積するとともに、頻繁に起きる地震に伴う海底地すべりによって海底付近でMPsが輸送され、さらに、相模トラフに沿ってプレート三重会合点に到達すると考えられます。これに対して、深海平原はその直上にある黒潮続流再循環域に生じる渦にプラスチックごみやMPsが集積し、そこから海底に直接沈降している可能性が高いことが推測されました。
本成果は科学誌「Marine Pollution Bulletin」に10月7日付でオンライン公開されました。
図:調査海域と調査地点周辺の海底地形
(A)調査海域(赤四角)周辺の地図と黒潮?黒潮続流(オレンジ矢印)の流れ、調査期間中に黒潮続流とその再循環域に存在した渦の中心位置(黒丸)。
(B)調査地点の位置と周辺海域の海底地形。相模湾のSt. 1(855 m)とSt. 2(1,387 m)、相模トラフの海溝側出口に当たるプレート三重会合点のSt. 4(9,218 m)とSt. 5(9,232 m)、深海平原のSt. 8(5,719 m)、St. 9(5,813 m)、St. 10(5,707 m)で試料を採取した。相模湾と深海平原では有人潜水調査船「しんかい6500」を用い、プレート三重会合点では大深度海底設置型観測システム「FFC11K」に搭載した堆積物柱状試料採取装置で採集した。
発表のポイント
- プラスチックごみのうち、風化作用により劣化して海底に沈んでいったと考えられるMPsが深海堆積物表層で大量に見つかり、行方不明となっているMPsの一部は海底堆積物に蓄積している可能性が高いことがわかった。調査地点の中では、房総半島の沖合約500キロメートルの深海平原で最も多くのMPsが見つかり、人口密集地の沿岸に近い相模湾、海溝に位置するプレート三重会合点がそれに続いた。
- 相模湾/プレート三重会合点で見つかったMPsと、深海平原のMPsを比較すると、前者のMPsの粒径や縦横比が大きく、含まれるプラスチックの材質数が多かったが、後者のそれは粒径や縦横比が小さく、材質数も少ないという特徴があることがわかった。
- 今回見つかった堆積物内MPsの形状や材質の類似性から、相模湾からプレート三重会合点へは海底地すべりなどでMPsが輸送されたのに対して、深海平原で見つかったMPsは海洋表層から直下の海底へ沈降したと考えられ、両者で輸送経路が異なっていたと推測される。
論文情報
- 雑誌名:Scientific Reports
- 論文タイトル:Distribution of microplastics in bathyal- to hadal-depth sediments and transport process along the deep-sea canyon and the Kuroshio Extension in the Northwest Pacific
- 著 者:土屋正史1、北橋 倫1、2、中嶋亮太1、小栗一将1、3、川村喜一郎4、中村明夢4、中野健吾4、前田洋作1、村山雅史5、千葉早苗1、6、藤倉克則1
(所属:1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.株式会社KANSOテクノス、3.南デンマーク大学、4.中国体彩网,中国体育彩票app、5.高知大学、6.北太平洋海洋科学機関(PICES))
- 公表日:2023年10月7日(オンライン公開)
- D O I:10.1016/j.marpolbul.2023.115466
謝 辞
本研究は以下の研究助成の支援を受けて実施されました。
- 環境省?(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF18S20211)