乳がんの再発に関わる新たな制御因子を発見 ~新規治療法の開発に期待~
共同獣医学部の島田緑教授?羽原誠特命助教の研究グループは、乳がんの再発に関わる新たな制御因子としてカルシニューリンを発見し、悪性腫瘍の再発に密接に関連するエストロゲン受容体の機能をカルシニューリンが増強するメカニズムを明らかにしました。
カルシニューリンはカルシウムシグナルを仲介する重要な脱リン酸化酵素であり、免疫抑制剤FK506の標的分子として臨床的にも重要であることが知られています。カルシニューリンはがん細胞の増殖を促進させる機能を持つことが報告されていましたが、がん患者さんの予後との相関関係については未解明な状況にありました。
本研究では、再発性乳がんに着目し、カルシニューリンが高発現していると内分泌治療後の乳がんの再発率が高くなり、予後不良となることを発見しました。カルシニューリンは、(1)エストロゲン受容体を脱リン酸化することで、エストロゲン受容体の分解を防ぐこと、(2)mTORキナーゼを介してエストロゲン受容体の活性を促進すること、の2つの作用により、エストロゲン受容体の機能を増強することが判明しました。
今回の研究成果は、エストロゲン受容体陽性乳がんの患者さんに対して抗エストロゲン療法を施した場合、再発するメカニズムに対して理解を深めることとなり、新たなバイオマーカー、効果的な治療法開発へと展開することが期待できます。
本研究成果は、2021年10月25日(月)午後3時(EDT/米国東部標準時(夏時間))に、米国科学アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」に掲載されました。
図1 カルシニューリンの発現量と予後の相関
エストロゲン陽性乳がんの患者さんに対して内分泌治療を行った場合、カルシニューリンが高発現していると、予後不良となる。
図2 カルシニューリンがエストロゲン応答遺伝子の発現に与える影響
カルシニューリンの新たな機能を明らかにするためにRNAシークエンシングを行い、カルシニューリンの発現抑制によって変動する遺伝子群を同定した。その結果、カルシニューリン発現抑制細胞では、エストロゲン受容体によって発現が活性化される遺伝子群が減少していることが分かった。
発表のポイント
- エストロゲン受容体陽性乳がんの患者さんに対して内分泌療法を施した場合、カルシニューリンの発現が高いと、再発する確率が高くなり予後不良となることを発見しました。
- カルシニューリンは(1)エストロゲン受容体の分解を防ぐこと、(2)エストロゲン受容体の活性を促進することの2つの作用により、エストロゲン受容体の機能を増強することが判明しました。
- 抗エストロゲン療法を行った乳がんの患者さんが再発した場合、カルシニューリンを阻害することでエストロゲン受容体の機能を抑制できる可能性があり、カルシニューリン阻害は、再発性乳がんに対する新たなバイオマーカー、治療法として期待できます。
論文情報
- タイトル:“Calcineurin regulates the stability and activity of estrogen receptor?α”
- 著 者 名:Takahiro Masaki, Makoto Habara, Yuki Sato, Takahiro Goshima, Keisuke Maeda, Shunsuke Hanaki, and Midori Shimada
- 掲 載 誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
- 掲載日時:2021年10月26日(火)午前4時(日本時間)オンライン公開
本研究への支援
本成果は、以下の事業?研究課題によって得られました。
- 中国体彩网,中国体育彩票app研究拠点群形成プロジェクト
研究課題名:「がんの増殖制御の解明と革新的治療法の確立」
研究代表者:島田 緑(中国体彩网,中国体育彩票app 共同獣医学部 教授)
研究期間:平成30年4月~令和5年3月 - 科学研究費補助金?基盤研究(B)
研究課題名:「がん化の鍵となる増殖シグナル伝達の分子基盤解明」
研究代表者:島田 緑(中国体彩网,中国体育彩票app 共同獣医学部 教授)
研究期間:平成30年4月~令和3年3月 - JST?創発的研究支援事業
研究課題名:「プロリン異性化による立体的ヒストンコードの解明」
研究代表者:島田 緑(中国体彩网,中国体育彩票app 共同獣医学部 教授)
研究期間:令和3年4月~ - 科学研究費補助金?基盤研究(C)
研究課題名:「ER陽性乳癌におけるプロリン異性化酵素の意義と治療標的としての可能性」
研究代表者:羽原 誠(中国体彩网,中国体育彩票app 共同獣医学部 特命助教)
研究期間:令和2年4月~令和4年3月