【世界初】マウス脳深部領域の低侵襲的 “血流” 観察に成功 ~脳機能?脳疾患の理解に向けた新たな二光子励起蛍光イメージング技術~
大学院創成科学研究科の川俣 純教授、鈴木 康孝准教授らの研究グループは、高知大学教育研究部総合科学系複合領域科学部門の仁子 陽輔助教、愛媛大学大学院医学系研究科の今村 健志教授、川上 良介准教授らと共同して二光子蛍光顕微鏡用の新規高輝度蛍光材料を開発しました。この材料を用いることで、世界中の研究グループが挑戦してきたマウス脳深部領域の “血流” の観察に世界で初めて成功しました。
本成果は、令和3年3月3日付 John Wiley & Sons 社が発行するハイインパクトな材料科学系ジャーナル「Advanced Functional Materials誌」オンライン版に掲載され、同誌のinside front coverに採択されました。
概要
高齢化社会が進む我が国において、認知症や脳卒中など、脳を対象とした様々な難治性疾患?血管疾患の病理機構の解明とその治療法を開発することは極めて重要な取り組みです。それらを実現するためには、疾患モデル動物の脳神経や脳血管を “低侵襲的(=動物を傷つけず)” かつ “高い時空間分解能(=小さく細かい血管や神経をミリ秒単位)” で可視化する技術が必要不可欠です。これに該当する最先端光学技術として、現在、二光子励起蛍光イメージング(2PM)が広く利用されています。2PMは、観察対象に蛍光物質を投与した後、同物質が発した蛍光を捉えて造影する “蛍光イメージング” の一つであり、特に生体内部を観察するのに適した技術です。しかし、従前の2PMはその観察可能深度が低く、例えばマウスの脳深部、特に記憶や学習能力に関わる “海馬” 領域の血管の観察が極めて難しいという問題がありました。
大学院創成科学研究科の川俣 純教授、鈴木 康孝准教授らの研究グループは、高知大学教育研究部総合科学系複合領域科学部門の仁子 陽輔助教、愛媛大学大学院医学系研究科の今村 健志教授、川上 良介准教授らと共同し、超高輝度(=高二光子励起発光効率)な蛍光ナノエマルジョンを開発しました。この蛍光ナノエマルジョンを用いて2PMを実施したところ、世界で初めて、マウス脳深部領域(白質層、海馬CA1)の “血流” を観察することに成功しました。
これまで世界中の数多くの研究グループが、蛍光物質を高輝度化することで、2PMで観察できる深さを拡張しようと挑戦してきました。それらの中にはマウス海馬領域血管の撮影に成功した例も僅かにありますが、一画像の取得に1秒以上要してしまうため、高速で生じる血管径?血流速度などの変化を捉えることが困難でした。一方、本蛍光ナノエマルジョンは既報の蛍光ナノ粒子群と比べて10~1000倍に相当する輝度をもち、0.01秒程度での一画像取得が可能となりました。その結果、 “血管” の画像化のみならず、血液が流れる(=血流)様子を映画並みのフレームレート(120fps)で観察することができました。
本技術を活用することで、脳の高次機能を司る大脳皮質から海馬領域に至るまでの脳血管?血流と神経回路機能の観察が可能となるため、脳高次機能のメカニズム解明や、脳血管が関与する様々な疾患の診断、予防および治療法の開発に繋げることができると期待されます。
ポイント(図1参照)
- ピレンと呼ばれる多環式芳香族化合物を母核とした新たな蛍光物質 “LipoPYF5” を開発した。LipoPYF5は、二光子励起蛍光イメージング(2PM)で汎用されるローダミン類などよりも高い輝度(=二光子励起発光性)を示す。
- “ナノエマルジョン” と呼ばれる粒子に多量のLipoPYF5を包摂させることで、超高輝度な蛍光ナノエマルジョンを開発した。この蛍光ナノエマルジョンを用いることにより、マウスの血中に多量のLipoPYF5を投与し、循環させることが可能となった。
- 蛍光ナノエマルジョンを投与したマウスの脳血管を2PMによって観察したところ、脳表面から約1.5mmの血管を観察することに成功した。
- ハイフレームレート(120fps)による撮像を行ったところ、白質層(~0.9mm)や海馬CA1領域(~1.1mm)の血管が観察され、さらに動画化することでその血流を直接観察することに成功した。2PMによるマウス脳深部の血流観察に成功したのは本研究が世界初である。
図1.本研究概略図?
論文情報
- 雑誌名:Advanced Functional Materials
- 論文タイトル:Integrated Fluorescent Nanoprobe Design for High-Speed In Vivo Two-Photon Microscopic Imaging of Deep-Brain Vasculature in Mice
- 著者:竹崎 陽1, 川上 良介2, 大西 省三3, 鈴木 康孝3, 川俣 純3, 今村 健志2, 波多野 慎悟1, 渡辺 茂1, 仁子 陽輔1*
- 所属:1. 高知大学教育研究部総合科学系複合領域科学部門、2. 愛媛大学大学院医学系研究科、3. 中国体彩网,中国体育彩票app大学院創成科学研究科(*責任著者)
- DOI:10.1002/adfm.202010698